Diary
日々の記録
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km : 九十九里浜にて


 981011 日曜日
訓練34日目 晴れ
 

 東京、王子にて、一級建築士製図試験。11時半から5時まで。
 トイレが近い。自由にいってよい。しかし頻繁に席を立つのは恥ずかしい。

 最後になって、ミスを発見。見落としてくれるだろうか?ああ、やばい。

 夜、S藤さん、Fさんと、もんじゃ焼きを食べに行く。初めて。
 もんじゃ焼き、大したことなし。大阪人としては、お好みのほうがよい。

 門限の10時。狭い談話室に候補生全員が集まる。Mさんと一緒に卒業できないから、早めの壮行会。
 小一時間の楽しい集まり。この歳になって、こんなふうにみんなで青春出来るとは。

 深夜、Mさんを囲んで数人集まる。またちょっと入る。洋酒は弱い。
 女性は精神的に疲れがたまってきている人が多いようだ。誰かに甘えたくなっている。で、俺は大変弱る。ちょっと嬉しかったりして。この、感情の生き物達。

 明日も東京は晴れるらしい。
 試験も終った。上京している友人達にも会ってみよう。













 

981010 土曜日
訓練33日目 ?
 

 明日が建築士の試験。ああ、勉強が足りない。製図試験だからトレーニングが足りない。

 Mさんは、結局足の完治を期して、来年7月の派遣となった。そして訓練も4月から行うことになった。たかだかドッジボールで起した怪我が、思っても見ない狂いに変わってゆく。エクアドルの次はスペインで服飾の仕事をしたいと言う彼女の夢の道程は長い。ここで躓くわけにゆくものか。

 昼食後郷里へ帰ることにした彼女を囲んで、記念写真。語学担任のP先生も来てくれる。Mさんは感激で泣き通し。幸せ者め。
 夜、ちょっと入って(何が?)皆で大騒ぎ。始末書ものだ。
 
 



 

981009 金曜日
訓練32日目 ?
 

 先日足を怪我したMさん、治療にまだ時間がかかるらしく、この隊次での派遣が出来なくなった。退職参加である彼女の身分措置について、候補生のあいだで緊急動議。今日顧問医の判断が出る。それを待って、また集まることに。
 結局派遣自体は取り消されないことになった。彼女には覚悟を要する通告めいた話が所長からあったので、それを思えば、最悪の事態は避けられた。

 あらためて、我々協力隊候補生の身分の不確かさを感じる。本当はいつだって健康と安定した生活は、当然つながりのあるものなんだけれど。
 
 


 981008 木曜日
訓練31日目 雨のち晴れ
 

 今日は朝は雨が降る。連日の長雨は終って、秋の時雨。広尾の欅並木が少しずつ色着き始めている。

 語学の中間試験が来週に迫っている。これは追試があるが、とにかく合格しなくてはならない。ちなみに訓練所を出て協力隊員になるのも、全て試験に合格しなければいけない。大抵大丈夫。

 講座は事例研究。8名ほどでディスカッションのワークショップ。過去の隊員の行動について皆で考える。外人のボランティアという立場の辛さ。

 夕方、Hさんに誘われて酒を買い出しに行く。?誘ったのは俺か。禁酒が徹底している訓練所。エントランスを通るのはどうも緊張する。彼は「鬼殺し」を1升買った。不良候補生。
 
 

生計抛ち来って詩これ業なり

家園忘却して酒を郷となす

          白   和漢朗詠集 巻下 酒

Hさん、酔っぱらって寝てしまった。夜半までの今日の語学の自習の成果は、既に忘却の彼方にある。生計抛ち…とならぬことを。
 かくいう俺も。今日は建築士の勉強はした。めでたし。












 981007 水曜日
訓練30日目 曇り時々雨
 

 本日の国旗と国歌はチリ。チリの旗は今ふうな雰囲気のデザインだなと思う。

 講座授業は適正技術とは、というもの。随分と大味なタイトル。JICAの専門家の方が教えてくれる。協力隊のOBで、協力隊に参加後、大学院で学んだあと、世界を飛び回る環境関係の専門家となった。
 南米には特に強い方。チリに関してビデオも入れて長時間解説。まともな方だといわれるチリだが、ゴミ処理や排水処理など、最終処分はとても杜撰。首都の大気汚染も物凄かった。

 夕食後は語学の宿題のあと、建築士の勉強。しかしこれがなかなか出来ない。集中力がもうない。今年の課題は割と難しいかも知れない。あした頑張ろう。

 夜半雨。おやすみ。













 

981006 火曜日
訓練29日目 雨のち曇り
 

 次の食事当番へ作業の引き継ぎ。3食とも一緒に作業する。

 ここの訓練所の食事については、まだ書いてないだろうか?実はこれまで同じメニューは一度もなかった。味付けはやや薄目で、なかなかうまい。とにかく飽きにくいのが素晴らしい。担当主任、つまりシェフは比嘉さんという人。いかにも沖縄人といった風貌の歳若い料理人。
 盛り付けも、給食ごときと手を抜くことなく、今日などは空揚げの衣を4種類用意して、味も見た目も楽しめるようにしていた。生姜、ナッツなど、あとは良く分からない。とにかく心意気が良く伝わってきて、職業人として感動させてくれる。先週は休みが多くてどうしたのかと思っていたら、二人めの子供さんが出来たそうだ。

 講座は今日はオリエンテーションのみ。派遣先で定期講読する雑誌などの申し込みについて。1冊だけなのが寂しい。配達後は私物となる。

 訓練所スタッフはいずれも協力隊の経験者、乃至は国際協力に関わってきた人たち。彼等やあるいは候補生による自主講座というのもあって、夜7時から畳敷きの談話室にて、今日は茶道講座。希望者のみ。俺も参加してみる。ドメスティックなことも学ばないと。茶室や香室の設計にかかわってきたくせに、実際にやったことはなかったので、良い機会だ。
 スタッフの総括主任のS氏による裏千家の作法で講座はすすめられる。彼はボリビア派遣のバイオリンの音楽隊員だった。茶は3年ほど。端正な顔を豊かにひげで飾った、とっても素敵な方。

 振る舞いの美しさをみていて、踊りや歌に同じく、やってみたくなる芸術?なんだなあと思う。お洒落の先にあるものという感じ。その辺から入るのが普通だろうと思う。
 花卉隊員で俺と同じ街へ赴任するGさんが、自生していた「ほととぎす」を羊歯とあわせて生けてくれた。皆で持ち寄る楽しさの饗宴といった雰囲気がいい。
 終ったのは10時。スタッフの方には大変ご苦労様である。

 語学自習。宿題をやって手一杯。












 981005 月曜日
訓練28日目 曇り
 

 朝の集い。国旗と国歌はポーランド。寒い。曇天。秋は突然に深まってゆくものだ。それは覚えた。

 先週の火曜から、今日まで給食当番だったが、今日で終り。

 語学課業の途中でまた予防接種。今日は肝炎。A型肝炎とB型肝炎の両方をするから両腕を一緒に揉む。間抜けな感じ。

 講座授業はWID、つまり開発と女性に関するもの。ジェンダーが開発を阻害したり、あるいは効果的に誘導しうる場合があるから、その辺の話。世界女性会議の成果であるとかの周辺の事を。お茶の水の先生を呼んで。
 明るく姦しいまだ若い先生だった。姦しいなんて、書くと怒られそう。って、わざとらしい?
 いつ聞いてもジェンダーのフェミニズムのという話は、ややこしい。思想の系譜にふれない訳にはいかんのだろうか?

 チリの協力隊事務所から受け入れに関する資料が来た。こういうのを待ってたのよな。今度はハッキリと「都市計画というよりも建築」と書いてある。俺が建築意匠系の人間でなかったらどうするんだ?たまたま幸運だった。俺も結構嬉しい。

 夜半から同室のHさん、それからSさん、S藤さん(この間長女が出来た人)と4人で酒宴。
 Hさんは8年前交通事故で瀕死の重傷を負った。顔面の整形、四肢機能のリハビリなどを経て、今は協力隊の候補生となった。実は事故をする前に、協力隊の試験に合格していたらしく、今回は8年越しの訓練なのだ。今日はその事故から8年目の記念日。
 事故で失ったものは多いという。けれど得たものは大きいのだという。満足げにバカ話をして笑う柔道家の横顔は、今日、やけに晴れやかに見えた。
 

   中秋の夜は敦賀にとまりぬ。雨降りければ

月いづこ鐘はしづみて海の底 (草庵集)

                    芭蕉

 せっかくの名月、東京では厚い雲で見ることが出来ない。
 横山大観の絵に、雲海のうえ寂寞と孤高を象徴して輝く月を描いたものがあったのではないか。芭蕉が聞いた沈鐘の逸話ではないが、柔らかな海底に似た、みはるかす雲のおもてにいま、高く月が出ている。



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