2004年03月18日
コンセント
DVDで「コンセント」を観る。
既に映画化されてから2年余。主人公の朝倉ユキの兄が真夏のアパートで腐乱死体で発見される。そのアパートの撮影ロケに以前住んでいたおんぽろアパートが使われた。なつかしいので、ロケ当日の日記を再掲してみようかと思う。
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2001/05/26
映画の撮影隊がどくだみ荘へやってきたのは朝の7時だった。サイレースが血液の中にまだ少し残っていた。あと少し覚醒したくなかった。ポストに投函されたチラシでは8時からのはずだったのだが。
田口ランディの著作「コンセント」が映画化されるらしい。物語は主人公ユキの兄がアパートで餓死し腐乱死体で発見されるところからはじまる。そのアパートにどくだみ荘が使われることになった。正確には私の隣の空き部屋が撮影現場に選ばれた。アパートの庭には2tトラックが大道具を運び込み、2箇所にヤグラが組まれた。早朝からすごい人数のスタッフが動き回る。
のそのそと起きだして珈琲でもいれようかと思っていると、隣の部屋から「本番行きマース」という監督の声。遠慮してやめる。やがて出かける時間になったので、撮影の間合いをはかってアパートのドアを開ける。
視界には巨大なヤグラの上のカメラ。変わり果てた景色に思わず「おわっ」と声をあげてしまった。監督と目が合う。「お邪魔してます」と監督。「いえいえ、ごゆっくり」と連れこみ宿の慇懃婆ぁみたいな意味不明な挨拶を、卑屈な笑みに添えて退出する。駐車場は機材や人の搬入車や仕出し弁当屋のクルマまで入っていて自分のクルマは出せそうもない。簡易テーブルや椅子がところ狭しと並べられ、まるでキャンプ場状態だ。あきらめて電車で出かけることにした。
平和島のTRCで開かれている表面処理技術展。見積りしてもらいたい物件があるという旧友の依頼で京浜東北線、モノレールを乗り継ぎたどり着く。食券(職権?)でサボテンのトンカツをご馳走になり、ささっと仕事を済ませて帰途に着く。肌にまとわりつく湿気が不快で、MDのボリュームを少し上げた。
17:30にどくだみ荘へ戻るとまだ撮影が行われていた。17時までとチラシには書いてあったのに。とても部屋に帰れる状態ではないので、庭の隅に座り込んで待つことに。大家のおばあちゃんが傍に来て「いつまでかかるんだろうねー」と言うと、スタッフの若い女性が飛んできて「声が入るので静かにするように」とたしなめる。ばあちゃんは興奮気味に「もう金輪際映画に部屋は貸さん」とか「礼儀を知らない連中だ」とたたみかけるように言う。
けっきょく彼らが撤収したのは18:30頃。手際よく機材を積みこみ風のように去っていった。漏れてきた会話から、明日は石和あたりでロケらしい。たぶん主人公「ユキ」の実家の収録だろう。それにしても、一言「ご迷惑をお掛けしました」ぐらい言っていけないのか。西陽だけが当たる部屋。眩暈がしそうな夏の暑さ。物語のエッセンスを伝えるのにこのアパートは最適だと思う。いいところに目をつけたねと。その嗅覚の鋭さには敬意を払うけれど、映像の世界に携わることで世の中を支配しているかのような奢りのようなものを感じてしまうのは私の考え過ぎだろうか。
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2001/05/27
閃光のあとややあって雷鳴がした。雨音が急速に近づいてきて黄昏を夕闇に変えた。
コインランドリーで洗濯乾燥の週次処理をし部屋に戻ったら、固定電話のディスプレィに元配偶者からの着信履歴が残っていた。コールバックしてしばらくとりとめのない話をする。そういえば昨夜長いメールをもらっていたんだっけ。
なにかの縁だろうと、田口ランディの「コンセント」を読む。日記のネタにでもという軽い気持ちで読み進めるうちにすっかりはまってしまい、いっきに読了してしまった。こんなしけたページでもネタバレするとこれから読む人にわるいのでストーリーは書かないが、ストーリー展開に唸ってしまった。これを綿密なプロットを立てて書いたとしたら、こりゃすごいと。幻冬社のwebを見るとプロットなしでいきなり書きはじめて、何を書くかわからないまま書き終えていたと著者は書いている。自動書記のようなトランス状態で書いているとしか思えない。
この小説の中でキーワードとなっているひとつに「匂い」、それも「死臭」がある。夏の暑いアパートで腐乱死体となって発見された兄の、強烈な死臭を主人公の朝倉ユキが嗅ぐ。そこから話がはじまり、やがてユキの内面世界へとストーリー展開していく。
「匂い」にはどくだみ荘で遭遇したことがある。ネットに書いたか現実世界の卑近な人に酒の席の与太ばなしとして語ったかはもう記憶にないが、たしかにその「匂い」を嗅いだことがある。
業績が悪く、社長から経済制裁をくらってこの安アパートに越してきた当時のこと。深夜のある時間になるとどこからともなく漂ってきた。毎日というわけではなくて天候とも関係はなさそうだった。最初は以前住んでいた住人の匂いかと思ったが、もしそうなら四六時中匂っていてもよさそうである。獣のような匂いとでもいおうか。表現しにくいが有機的で不快な匂いであることはたしかだった。どこかで嗅いだことがある。しかし思い出せない。死臭? 一瞬そんなことが脳裏をよぎり、あわてて否定した。たまたま嗅覚が鋭敏になっていたか、さもなければ低級霊が通過中なのだということで自分の中では完結した。いったいあれはなんの匂いだったのだろう。